ヴェラ=エレン その11「エピローグ」2007年11月16日 00時44分26秒

おそらくゴールドウィン時代と思われるポートレイト
やっぱりこうでなくちゃ・・・・・・・・・



 ヴェラ=エレンの人生は自身の肉体との戦いだったのだろうか。スターという夢を実現させるためダンスという手段を使わねばならなっかた彼女にとり、「ダンサーとしての体づくり」、「身長を伸ばす努力」、さらに「成熟した女性への変身」・・・・・と戦場を変えて戦いは続いた。そこには母親の願望、映画スタジオの圧力は当然あっただろう。しかし彼女自身の強い意志と完全を求める性癖が外からの願望や圧力と混成したとき、戦いは暴走し始める。

 ヴェラ=エレンが神経性食思不振症(いわゆる拒食症)であったのではないかということは以前からささやかれていた。もちろん医師の診断を受けたわけではないので真相は藪の中である。
 しかし病気であったか否かに関わらず、彼女にとってやせることはスターとして生き残ることであり、さらには「生きる」ことと同義であった。スターを目指しハリウッドまで来ながらゴールドウィンを首になったとき、MGMは単にミュージカル映画を撮るための最高の場所だけを意味しない。映画スターになりたいという自身と母親の願望を実現させるための一縷の望みでもあったのだ。

 「腿をもっと細くしろ」「ウエストは18インチから20インチ」と要求するスタジオに彼女は過剰に適応した。いくら運動しても痩せるのには限界がある。結果としてダイエットにのめりこむ。食事もステーキと野菜か果物のみ(当時はこれがダイエットによいと考えられていた)。一日中コーヒーを飲み続ける。頬がふっくらしているのがよくないと、指で頬を押し続ける。

 努力の末”the Belle of New York”でアステアと横並びの共演者という地位を手に入れたにもかかわらず、結果は惨敗。その後は逆に、苦労して作り上げた肉体がスターとしての地位の維持を裏切っていく。

 最後の十五年間を語る言葉は私にはない。


 しかしゴールドウィンにもMGMにもスターとして企画をなかなか実現してもらえなかったのは、本当にスタジオの無理解のせいだけだったのだろうか(この本の描き方はそうである)。いやしくもプロの制作者たるものがそろって同じ過ちを犯すのだろうか。私にはヴェラ=エレンの側にも制作を躊躇させる何らかの魅力の欠如があったと思えてならない。

 彼女と接した人たちは異口同音に「優しく、思いやりのある」その態度を絶賛している。反面、普段の生活でつきあうのは、MGM以外のスターや映画関係者と親類縁者のみ。MGMの共演者とも一線を画し、撮影中も孤立していることが多かった。彼女自身は「ベストをつくしていればプロデューサーは使ってくれる」という考えだったようだが、日ごろの付き合いがなければよい仕事をもらえないのはどこの世界も同じこと。その面での大事な「仕事」が出来なかったことも彼女の欠点の一つであろう。

 彼女の遺骨はカリフォルニア州サンフェルナンドの霊園に葬られている。墓石にはただ「VERA-ELLEN 1921-1981」とのみ標され、名前の左に彼女の踊る姿がシルエットで描かれている。一つおいて隣が母アルマの墓。二つの墓の間には墓石もなくただ草が生えているだけだが、そこに娘の亡骸が葬られていると云うことである。

 最後に彼女の古くからのファン、ボブ・ジョンストンが作者に当てた手紙の最後の部分を訳して終わりにしたい。
 1998年8月の暑い日、霊園を訪れた彼は苦労の末ようやく彼女の墓を見つけ出し、次のような感慨を書き記している。

「・・・・・・・・・・・あなたなら他の誰よりもこの気持ちを理解してくれると思うのです。墓の前で私がどれだけ絶望感に打ちひしがれたか、そして、人生で最愛の人々より長生きしてしまったことで彼女がどれだけ悲しかったかを。
 これほど見つけるのに苦労する場所に彼女が打ち捨てられていることにわたしは戸惑っています。彼女の墓を見つけ、そこで祈りの言葉をささげることが出来たこと、そして彼女が求めていた本当の幸せをあの世で見つけることが出来たであろうと思えたことは確かにうれしいことです。
 でももう一人の私は、今日経験したことをどう理解してよいのかわからないのです。今考えられるのはこのことだけです----『土を土に、灰を灰に、ちりをちりに帰すべし』。
 彼女の出演映画とこの本の存在がどんなにありがたいことか。もしこれらがなかったなら、時とともに彼女の記憶は永遠に消え去ってしまうでしょうから。」





註:
この項は”Vera-Ellen: The Magic and the Mystery”(David Sorenら 著 Luminary Press 2003年)を基に書いたものです。
その1、7、11では、引用以外は私の考えを述べ、2-6および8-10は、主に本の内容を要約、編集したものです。
一部、事実の認定に疑問のある部分もありますが(アステア映画の初の赤字がBelle of New Yorkかなど)、本の内容のままとしました

コメント

_ gypsy ― 2008年01月15日 23時46分29秒

すばらしいブログですね。
まだ、ヴェラ・エレンのエピソードしか読んでいませんが、興味深い内容に一気に引き込まれてしまいました。
大好きな女優さんなのに、いままでその生い立ちや私生活については何も知りませんでしたから、こうした本の内容を紹介してくださったことをとても感謝しています。
晩年や、お墓の有様についての記述はショックでしたが……
それにしても、「踊る大紐育」での給料がグラディスさんと同じだなんて、MGMもひどすぎる(笑)
そういえば、僕はMGMでの出演作よりも、「Call Me Madam 」「銀の靴」といった、他社の作品に出ている彼女の方により愛着を感じてきました。
その意味でも Three Little Girls in Blue はぜひ見てみたいですね。

_ OmuHayashi ― 2008年01月17日 00時43分01秒


gypsyさん、いらっしゃい。

お読みいただき、ありがとうございます。

たしかにヴェラ=エレンの経歴としては日本で一番(?)詳しいものが書けたのではないかと思いますが、なにぶん要約なので書き足りない部分も出てきます。

晩年の様子も、まとめてしまうと上の記事のように悲惨な印象を受けますが、実際の日々の暮らしは、ダンススタジオの後輩たちとお茶を飲んだりするようなのんびりして、穏やかな面もあるようです。

何を書いて何を書かないかは難しいところです。

Three Little Girls in Blueについては、私もいつか見てみたいものだと思います。

ではまた。

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