ジーン・ケリー おまけ その3 「モールド感」2007年08月27日 23時37分50秒

do i love you2

おなじく”Do I Love You?”
なかなか良い場面がキャプチャーできませんが、ここで見ていただきたいのはケリーの体に充溢する質量感です。

 その2で述べたように、以後の作品を通してケリーのスタジオ内での評価が高まり、彼自身の振付に対する関与が大きくなっていきます。結果としてプロダクションナンバーの状況設定や振付はケリーの嗜好を反映し、ストーリーの流れと違和感のない、現代的で斬新なものに変化します。

しかし「デュバリイは貴婦人」の頃のケリーにまだその発言力はありません。ダンスのルーチン自体は彼が考えたとしても、設定はいかにもありきたりで古くさく、カラーでなければ三十年代のミュージカルナンバーとなんら変わるところがありません。しかし、逆にそこが内容や振付の斬新さに目を奪われることなくケリー自身の身体---それも三十歳近くの若々しい身体---を見て取れる大切な機会でもあるのです。

 楽屋から通路を通り客席後方に現れるときからすでに、股関節を中心にコントロールされた彼の体は安定と躍動感に満ちています。 通路の椅子を一つ飛び越え、さらに舞台へ飛び上がる姿の楽しげな余裕。ムーディーな曲をバックにスポットライト一つに照らしだされる流れるような腰の移動。胸、腰、腕が膨張感と特有の質量感で観る者に語りかけてきます。
 まさに彼の独壇場、ケリーならではの身体の与える悦びとしか言いようがありません。

  このときのケリーの身体から受ける印象を、私は「モールド感」と勝手に名づけてみました。

 基になった英語は”mould”--- 名詞なら「型、鋳型、流し型」、動詞なら「(型に入れて)・・・・を造る、(ある型に)・・・・をこしらえる。」を意味します。

 語義だけ見ると「型にはまって堅苦しい」とか「融通に欠けぎこちない」といった悪いイメージを持たれるかもしれませんが、そういう意図はありません。ここで表現したいのは、体全体が鋳型で作り上げたように一つのユニットに統一されていながら、四肢や胸、腰などそれぞれの部位が機能的に連動し、豊かな表現を行える身体の状態です。
 この状態で現わされるのは、身体の「充実・重み」からくる、「信頼・安心・安定」であり、感覚的には「明るさ・楽しさ・魅惑」であり、動きとしては「膨張・連動・躍動」です。小難しく言えば、「身体の動的な愉悦」でしょう。

 若い頃のケリーにはこの感覚があふれているのです。

ジョーン・マクラッケン その9「パロディー」2007年07月11日 23時28分40秒

parody

 大勢の女の子に囲まれた中央で腕をクネクネ、ヒラヒラさせながら上下します。本来なら色っぽく、セクシーになるところでしょうが、この人はなりません。
 手や首の短さが彼女の踊りにユーモアの下味をつけ、危険な色気に届かせないのです。

 意識しているか否かは別とし、このようにすべての踊りがセクシーさのパロディーになってしまうのが、彼女のもう一つの特性です。生まれ持った身体がダンスの質を規定してしまいます。
 そこを含めて考えると、このナンバーは彼女の特性を生かすのに本当に良く出来た振付だと思うのです。一部にドラムの響きを使ったインディアン風の土俗的な動きを取り入れながら、全体として若者のエネルギッシュな躍動感をみなぎらせた振付-----これらを表現するのに、彼女の東洋的といってよい腹中心の身体、全身のバネ、そして短躯に由来するコミカルな愛らしさはまさにうってつけなのです。

ジョーン・マクラッケン その8「躍動」2007年07月11日 00時28分35秒

躍動

回転しながら体を開いた瞬間の躍動感あふれる動き。
こんなときも股関節と膝が大きく開くのが特徴です。

落ちる重力線と釣り合う、強い足腰のダイナミズム。
胸の開きから左右の腕の伸びが、豊かな喜びを表現します。

ジョーン・マクラッケン その72007年07月11日 00時26分04秒

エネルギー

 正面を切ってカメラに向かってくるときの異様なエネルギー。
明るくはあるがどこか妖しさがやどります。

 この映像だけではわかり難いかもしれませんが、常に重心線を下へ下へと向かう運動のベクトルがこの人の踊りにはかかっています。

ジョーン・マクラッケン その6「グッ」2007年07月10日 23時56分10秒

ぐっ

ついでにこの映像

腹と左腰がグッと入ったこの感じ。
そこから出た力が額にかざした左手まで延びています。
体全体のエネルギーの濃さが違います。

ジョーン・マクラッケン その5「バボちゃん」2007年07月10日 21時02分54秒

バボちゃん

 突然ですが、フジテレビのバレーボール放送のマスコットキャラクター「バボちゃん」です。


 どうしてここに出て来るんだと怪訝に思われるでしょうが、マクラッケンの身体イメージを極端に模式化するとこうなります。
 
 この場合は体全体が腹になっていますが、左右の手足が中心から等距離に同じ機能を持って放射状に延び、基本的に上下左右の差はなくなっています。腹を中心に身体各部がしっかりコントロールされたこのイメージは、手足の短い彼女にはなおさらピッタリです。

 ところで以前ドナルド・オコナーについて、腹がよく利いていると書きました。しかしそれはあくまでも、全体的にスマートな印象をあたえるオコナーに対して「比較的」という但し書きがついてのことです。マクラッケンの場合は違います。腹は彼女の全身体イメージのかなりの部分を象徴し、その存在感ははるかに大きなものです。

 腹をしっかり錬り上げ、そこを中心とした身体活動を行うという考え方は、歌舞伎や日本舞踊ではごく当たり前のことですが、美しい身体軸を作り上げることを目標とするバレエの訓練を受けた中からどうして彼女のような身体が生まれたのか。

 まさに異能の人です。

ジョーン・マクラッケン その4「腹」2007年07月10日 21時00分38秒

腹

 とはいえ、彼女の踊りが一般のバレリーナと全く違うことは、一目すぐにわかります。

 彼女の踊りを他と分かつ特徴は、その発達した腹と可動域の広い股関節にあります。上の写真を見て下さい。”Pass That Peace Pipe”です。左足の出し方が後ろの男性たちと全く違うのがわかるでしょう。
 男性たちがお尻のあたりから左足を斜めに差しだしているのに対し、彼女の場合、上体に無理をかけないまま左太股が股関節からグッと側方に開き、股の間に腹や尻ががすっぽり納まった印象を受けます。優れた相撲取りの四股や股割と同じです。この安定感、地面に吸い付くような重力との親和性が彼女の優れた特性の一つです。

 腹は身体の中心となり体の各部分をまとめていきます。上の写真でも、左右の腕、頭部、左右の脚それぞれがバラバラの方向に出され、何らかの直線や曲線に統一されているわけではありません。しかし、全体としてまとまった印象を受けるのは、彼女の腹が身体運動の中心を支える強い存在になっているからです。