ドナルド・オコナー その7 「夜は夜もすがら」 ― 2007年06月10日 23時42分42秒
「夜は夜もすがら」(1956)より
”You Can Bounce Right Back”
子供たちと遊びながら、鉄琴もひとっ跳び
”I Love Melvin”(1953)、「ショウほど素敵な商売はない」(1954)はとばして、最後の主演ミュージカル「夜は夜もすがら」(1956)。
コール・ポーターのヒット・ミュージカル”Anything Goes”の二度目の映画化ですが、舞台や'36年の第一作「海は桃色」とはストーリー上何の関係もありません。
舞台でコンビを組むことになったビング・クロスビーとオコナーが、それぞれ主演女優をヨーロッパで見つけてきますが、必要なのは一人だったため後でもめるというお話。クロスビーはジジ・ジャンメールと、オコナーはミッツィ・ゲイナーと恋仲になり、最後は四人そろって舞台に登場します。
クロスビーとの掛け合いや、ゲイナーとのロマンティックなダンス”It's DeLovely”もありますが、何と言ってもすばらしいのは”You Can Bounce Right Back”。大西洋をアメリカに向かう客船の遊戯室にはいりこんだオコナーが、ボール遊びをしている子供たちと掛け合いながら踊ります。
ボールを床から壁にバウンドさせ、戻るところを受け止めたり、ドリブルしながら踊る芸自体も見事ですが、ボールが返るまでの合間に行う、ターンやタップのタイミングと体の切れには感心してしまいます。「雨に唄えば」以外に見ることができた中では最高のナンバーだと思います。
クロスビーもこの作品で1932年から続いたパラマウントとの契約が終わります。
時代は移り変わっていきます。
オコナーはこの後、同じパラマウントでバスター・キートンの伝記映画に主演します。しかし期待されたにもかかわらず、評判も興行も振るいませんでした。以後彼はナイトクラブや舞台、テレビに主な活動の場を移しますが、アルコール依存(’70年代に解決したそうですが)やそれに伴う健康上の問題をかかえ、’50年代までのような活躍はできませんでした。
2003年9月、カリフォルニアで心不全のため亡くなります。78歳でした。
オコナーについて私は、かなわぬ望みを抱いていたのかもしれません。ちょうど硬貨を薄切りにして表と裏を分けようと考えるように。硬貨をいくら薄く切っても、表と裏は一対となって必ず存在します。どれほど純粋なダンサーとしての能力を期待しても、子供の頃から体に滲みこんだコメディーやアクロバットのセンスはオコナーのダンスの一部であり、切り離すことはできません。生まれながらのヴォードヴィリアンなのです。
私のオコナーへの印象は、独り相撲の思い込みで始まりました。しかし最後は次のように気づくことで終わりに近づいたようです。
卓越したタップとコミックかつアクロバティックな要素の混在こそが彼のダンスであり、比類のない彼独自のジャンルといえるのだと。そして、三十代以降の、無理に名声を得ようとしない生き方も、彼のダンス同様、「ほどのよさ」の現れだったのかもしれないと。
コメント
_ mohara ― 2007年06月13日 00時17分14秒
_ OmuHayashi ― 2007年06月14日 01時03分50秒
moharaさん、今晩は。
いつもお読み戴きありがとうございます。
オコナーという人は「自分が是が非でもNo1になってやる」と
いった執念などあまり持たない人なのではないかと思います。
今回の記事を書くにあたり読んだもののなかにも、「ヴォード
ヴィル芸人の特徴として、物事を現実的に見る」傾向があった
とあります。
要するに、「人気も芸のはやりすたりもその時々の情勢に左右
され、うつろい易い。しかし、しっかりした歌と踊りの芸さえあれ
ば、自分が食べていくくらいのことは困らない。」といった考えを
持っていたらしいのです。
そういう、なんというか、恬淡としたとでもいうところが、この人
の芸に見え隠れするような気がします。
女性にとってどうゆうところが魅力的なのかは、ちょっとわかり
かねますが・・・・。
記事の間が開きすぎるのは確かに何とかしたいと思うこともあ
りますが、どうも私はこつこつと同じペースで物事を続けるのが
苦手なので、うまくいきません。一回一回もっとゆっくりしたペー
スで書き続ければよいのでしょうが、書き始めると早く全部を書
き上げなくてはいられないし、そうすると仕事も二の次になって
しまう傾向があるので、そうそう書いてもいられなくなるのです。
ご愛読(?)いただいて申し訳ないのですが、そういう事情でご
容赦願いたいと思います。
ご要望のアステアについてはいつでも書きたい気持ちはあるの
ですが、これを書いてしますと、「もういいや」となってこのブロ
グも終わってしまいそうな予感があるので、まだ書かないでい
ます。
もう何人か書いてからとは思っていますが、今までのペースか
らすると・・・・・・・・いつになるんでしょう?
というわけで、これからもよろしくお願いします。
_ swonderfulrobin ― 2007年06月18日 22時51分39秒
OmuHayashiさま、ご無沙汰しております。
メイヤーからエレノア・パウエルからすべて読ませていただいてました。
いつもすばらしい記事をありがとうございます。
ドナルド・オコナー…!!
私にとっては、彼がすべての始まりです。
「過不足の無さ」
彼の小気味よいダンスがとても好きです。
彼のダンスは・・・
まな板でキュウリやらをとんとんと切る感覚と似ているなあと思ったりもします。
その昔、ある掲示板で
「雨に唄えば」と「ショウほど~」しか見ていなかった私は
『オコナーは「雨に唄えば」が最高、一番良い』
という書き込みを読んで、
さらに同意している方が多くて
なんとなくがっかりした覚えがあります。
あの作品からは、彼のさらなる可能性を感じるので…
今でも、まだ観ていない
"I love Melvin"には捨てきれぬ希望を抱いていますが。
私も、”You Can Bounce Right Back”がとても好きです。これが一番ほどよい気がします。
“Make 'Em Laugh” は観れば観るほどしつっこい感じがしますが(ジーン・ケリーの影響??)
これはさらっと踊っていて、さりげなくすごい感じが
私の「オコナーっぽい踊りのつぼ」を押さえていて
何度も何度も観てしまいます。
いつものことながら、
OmuHayashiさまには恐れ入ります。
すごいです。
どうしてこんなにもダンスを見て受ける感じを明確に言葉にできるのでしょう。
突っ込みを入れるところに寸分の狂いもないです。
エレノアの「ビギン・ザ・ビギン」のコーラスの女の子への突っ込み、さすがでございました。
ああ。すっきり。
いつも気持ちの良い文章、楽しみでなりません。
メイヤーからエレノア・パウエルからすべて読ませていただいてました。
いつもすばらしい記事をありがとうございます。
ドナルド・オコナー…!!
私にとっては、彼がすべての始まりです。
「過不足の無さ」
彼の小気味よいダンスがとても好きです。
彼のダンスは・・・
まな板でキュウリやらをとんとんと切る感覚と似ているなあと思ったりもします。
その昔、ある掲示板で
「雨に唄えば」と「ショウほど~」しか見ていなかった私は
『オコナーは「雨に唄えば」が最高、一番良い』
という書き込みを読んで、
さらに同意している方が多くて
なんとなくがっかりした覚えがあります。
あの作品からは、彼のさらなる可能性を感じるので…
今でも、まだ観ていない
"I love Melvin"には捨てきれぬ希望を抱いていますが。
私も、”You Can Bounce Right Back”がとても好きです。これが一番ほどよい気がします。
“Make 'Em Laugh” は観れば観るほどしつっこい感じがしますが(ジーン・ケリーの影響??)
これはさらっと踊っていて、さりげなくすごい感じが
私の「オコナーっぽい踊りのつぼ」を押さえていて
何度も何度も観てしまいます。
いつものことながら、
OmuHayashiさまには恐れ入ります。
すごいです。
どうしてこんなにもダンスを見て受ける感じを明確に言葉にできるのでしょう。
突っ込みを入れるところに寸分の狂いもないです。
エレノアの「ビギン・ザ・ビギン」のコーラスの女の子への突っ込み、さすがでございました。
ああ。すっきり。
いつも気持ちの良い文章、楽しみでなりません。
_ OmuHayashi ― 2007年06月22日 00時33分24秒
swonderfulrobinさん、今晩は。
いつもコメントをいただくたびにお褒めいただき、ありがとうご
ざいます。うれしいような恥ずかしいような複雑な気分です。
オコナーに関しては、元々それほどの思い入れがなかったの
で、書き始めるときは食指があまり動きませんでした。それが
映像を見直してみることで、今まで勝手な先入観を持って見た
り、見過ごしていたところを考え直すきっかけになり、彼への評
価も変わってきました。結局そこを書くしかなかったわけです
が、何ごともよく観なくちゃいけないという意味で勉強になりまし
た。
ところで「まな板でキュウリやらをとんとんと切る感覚」という
のは「言いえて妙」というか、わずかな言葉でオコナーの体の
切れとサッパリ感を形容する素晴らしい表現だと思います。
swonderfulrobinさんの体の感覚から出た表現なんでしょう
が、誰もが思いつかないが、言われると「そうそう」と相槌を打
ちたくなる・・・そういう表現です。これがトマトやチンゲン菜では
オコナーにならない。
結局こういう感覚をみがいて、それを論理的にたどっていくし
かないんでしょうね。書くということは。
べつに、ほめてもらったお返しに無理にほめているわけでは
ありません・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん。
ご自身のブログの方もまた書き始められたようで、安心いたしました。
ではまた。
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ドナルド・オコナーって、何か語りにくいのでしょうか。
『雨に唄えば』のMaken Em' Laughや『Call Me Madam』の風船割りダンスは驚くほどアクロバティックですが、どこか「何をやってもはみ出さない」という印象を強く感じました(キートン役をやって失敗したというのも、何かわかる気がします)。
そんなところが、でも、女性ファンの心を惹き付けるのでしょうか?
私自身は、『ショウほど素敵な商売はない』の次男(でしたっけ?)の役が、いちばんオコナーのキャラクターに合っていたような気がします。
いつも楽しみにしておりますので、ぜひ、間を置かずにお願いします(?)。
次は、アステアでしょうか? 「アステア好きのケリー派」の私としては、アステアとケリーの比較論など、つい期待してしまいます…