ジーン・ケリー その4 「支点」2006年11月23日 22時15分55秒

ジーン・ケリー 支点
  
 
 これは「舞踏への招待」でアラビアの少女?(もちろんアニメーション)と踊るシーン。ケリーのキャリアの衰退の始まりに当たる時期といってよいのでしょうか。野心作であるにしても映画としての出来はほめられませんが、このシーンはすばらしい。水彩画というのか、少し水墨画風の淡い色彩の中を睡蓮の葉に乗り、水の上を文字通り滑るように進むうちに、ロマンチックな感情が高まって来ます。

 このとき蓮の葉に着いた左足はもちろん体重を支えているのですが、宙に浮いた右足の方がまるで後ろにある壁をけっているように後方に延び、その反作用としての力が腰から体を通過し右手の先まで延びています。胸のラインに沿った首から顔の曲線、左腕の返し具合もバランスよく、絶妙ですが、なんと言っても、右足先から右手指先に続く延び続けるような力の流動感がこの人の持ち味です。また、肩周辺の筋肉が発達しかつ機能的に結びついているため、肩関節で力や動きが途切れず、下半身からの力の流れが安定かつ滑らかに指先まで伝わって行く感覚を見る者に与えます。

 この力の身体内での伝達を可能にしているのが体内での「支点のつくり」と「溜め」です。体の中に支点を作り、その支点にエネルギーを溜め込みながら次から次へと波動を伝えて行くのですが、支点と支点の間隔が短くなれば波動は滑らかになり、流れるように伝えられます。
 梯子を上るとき一段目(支点)に足を掛けギュッと体重がかかったところでそのエネルギーを利用しもう一方の足を上げ次の段を踏むといったことを繰り返しますが、それと同じようなことを体内で行うのです。前回書いた胸の動きもそうですが、おそらく腹の中や股関節周辺にも同様の「装置」があって、それらが支点となり波動のエネルギーをいったん溜め、さらに増幅して体内を伝えていると思われます。

  この流動感を気持ちに乗せ、ある意味、過剰にあざとく見せてくれるのがケリーの魅力といえるでしょう。