ジーン・ケリー その2 「 たたずまい」 ― 2006年11月06日 00時06分15秒
一つ一つの要素として挙げていくと「なんだ」ということになりますが、私達はその姿を見た瞬間、直感的にダンサーの質と構造をその立ち姿から見取り、評価するのです。その瞬間の印象が優れていると私は「たたずまい」という言葉で表現したくなります。「たたずまい」は本来価値判断から中立的な言葉かもしれませんが、私にとっては言葉自体が褒め言葉です。踊りは動くものかもしれませんが、実はこのたたずまいの中にダンサーの能力と魅力が凝集されていて、そのダンサー独自の風格や特徴が伝わってくるのです。これに魅力を感じさせないダンサーはいくら動きでごまかしても面白みがない。「踊りの色気」と言い換えてもよいかもしれない。
キャロル・ヘイニーについてはいずれまた書きたいと思います。しかしここはケリーに話を戻さないといけない。「たたずまい」の話を出したのは、ケリーこそ瞬間瞬間のたたずまいに様々な質と構造を含んで、まさに魅力の宝庫といえるからです。
ケリーの姿を見るとき、彼がよくとる立ち姿は、頭からお尻までの体幹部を一体としながら、股関節で大腿部を前方に曲げさらに膝を軽く曲げた姿勢です。つまり体幹部に対し脚が常に前に出ています。アステアが上半身から下半身までほぼ真っ直ぐ、すなわち一見棒立ちのような姿勢をとるのと大きく違います。このときケリーの体幹部は全体とすれば重力に任せてかなり脱力し、リラックスした状態にありますが、下肢は体より前に出ているので体幹部の重みを支えるためにかなりの筋力を必要とすると思われます。彼の踊りがアスレチックだとか力が入っていると言われながら、硬さをあまり感じさせない矛盾の原因はこんなところにあります。つまり頭部と体幹部は一体となって重力にまかせてリラックスしたまま落下しようとするのを、脚(とくに大腿部)の筋力で支えるという基本構造をこの人がかかえているからです。
下肢で支えないとおそらくお尻からストントと尻餅をつくことになるでしょうから、下肢はかなりの重さを支えなければならず、当然相応の筋力を必要とすると思われます。ケリーを評して重心が低いとか、地面に接近して踊るのを好むと言うのも、この構造の必然的な結果です。お尻から落ちて行こうとするものがアステアのように上方に浮き上がる印象を与えることはありえません。頭部から体幹部のリラックス感と下肢の力感。矛盾する二つの要素をこの人は持っています。下肢の筋力のため、当然タップは力強くなります。
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