ジーン・ケリー その5 「 ガシッ!!」2006年11月24日 00時34分41秒

Kelly and Cyd

 
「雨に唄えば」から「ブロードウェイ・バレエ」のシーン。

まあこの写真だけではわからないでしょうから、DVDででもよく見てください。田舎者のケリーがメガネを蹴飛ばされたり散々シド・シャリースに翻弄された後、怒って彼女の腕を取り、強く引いて抱き寄せます。
この間の動きを観察すると、かなり力をこめて引っ張り込み、まさに「ガシッ」という感じで受け止めます。もちろんケリーが女性を抱くときにいつもこんなに力をこめているわけではありません。逆にほとんどの場合はやさしくそっと抱いているのでしょう。しかし現代的な男女の感情を表現しようとしたらこういう力強い、ある意味暴力的な表現方法が必要になってきます。アステアだったらありえない(あるいは必要ない)表現です。ケリーの感情表現、そして彼がミュージカル映画のダンスによってこれから描こうとしていたものが、このような表現法を必要としたのです。


  多くのミュージカルにプロデューサーや音楽監督として関わったソール・チャプリンの自伝(the Golden Age of Movie Musicals and Me)を読んでいたら、製作現場でのジーン・ケリーの逸話がいくつか出てきました。

「カバーガール」では監督のチャールズ・ヴィダーと口論から殴り合いの喧嘩になることが再三あり、そのたびにハリー・コーン(大物だ!)が仲裁に呼び出された。
  反面、ソール・チャプリンに対し、「(相手役の)フィル・シルバースの役はできるだけ面白くしてやってくれ。おれのことは心配するな。自分でどうにでもできるから。」と言っています。

「私は驚いた。こんな自分勝手でない役者をみたことがなかった。彼が自分の役だけを考えていたのではないことは明らかだった。この映画全体を考えていたのだ。ジーンとはその後何度も仕事をともにしたが、その態度が変わることはなかった。彼は常に作品全体を考えていた。実際のところ、自分のことは自分でどうにでもできたのだ。」

「魅惑の巴里」で共演したケイ・ケンドールは、誰にでも初対面のときから旧友であったように思わせてしまう魅力的な人物だったが、ケリーとは別だった。きっかけは何だかわからないが二人はドレッシングルームで悪口雑言のかぎりに罵り合う。ところが、これじゃ今日の撮影はもう出来ないと皆が思っていると、ケリーはケイ・ケンドールと腕を組み、冗談を言い合いながら何事もなかったように現れる。

そういう人なのである。



とりあえずジーン・ケリーについてはひとまず終わりです。
何か一番重要なことを忘れているような気もしますが、今はしかたがない。

いずれ他の人を書く中で、また触れることになるでしょう。

コメント

_ swonderfulrobin ― 2006年11月26日 22時31分51秒

OmuHayashi様、こんばんは。
お邪魔いたします。

シドさんがジーン・ケリーと踊ると
あざだらけになったと語っていましたが、
このシーンでもそうなったんだろうなと想像していた部分です。

私はケリーのダンスが好きなのはやはりこういう雄々しい力強い部分ですね・・・
そう言う部分がもちろん一番印象的なのですが、
このナンバーのはじめのほうでエージェントのドアを叩いて回る
その時のタップの軽さ、
(それからヴァンプのシドさんと踊るこのクラブに
 エージェントに連れられてタタタッと階段を走るそのしぐさひとつとっても
 好きなのですが・・・)
その差??も私はとても好きです。

こちらは、いつも楽しみにさせて頂いております。
はじめて知った、ドナルド・オコナーのインタビューも
大変興味深く読んでいるところです・・・
上記のソウル・チャップリンの伝記も
私は知らない書物だったので、初耳のエピソードばかりでした。
書いてくださって、すごく嬉しいです。

今、トミー・ロールのダンスを観ていました。
彼についても、是非書いてくださいって
リクエストが多いですね・・・

では、またの更新を楽しみにしております。

_ OmuHayashi ― 2006年11月28日 01時45分34秒



Swonderfulrobinさん、いらっしゃい。

私の名前には「様」を付けていただいておいて、相手には
「さん」付けで申し訳ないのですが、なんとなく堅苦しくなるので
「さん」でご勘弁願います。

「ブロードウェイ・バレエ」のシド・シャリースのパートは
当初キャロル・ヘイニーが踊るはずだったのを、皆から反対
されて、ケリーがしぶしぶシド・シャリースにしたということなんです
が、どっちが良かったかを想像してみるのも楽しいですね。

こういう「一話読みきり」みたいな形で書いていると、短い文章で
書きやすい反面、その場の思いつきで書いてしまい、
全体とすると対象の表面をなでまわして終わりになっている気もします。
それと項目ごとの時間の間隔があくと、はじめに考えていたことも
どこかに消えてしまったりします。

まあ、どちらでもたいして変わらないと言えば、そうなんですが。


あとは、どうしても男の感性で書いてしまうので、「そこは違う」
というご意見があればいつでもどうぞ。

_ swonderfulrobin ― 2006年12月09日 17時44分34秒

OmuHayashi様、こんにちは!

拙ブログを更新したついで(失礼いたしました)に
お邪魔させて頂いております。

先日、
OmuHayashi様のブログを紹介してくださった際に
私が「戦慄が走った」と言うのはこの部分のことです。


「べつにネイティヴの研究者と張り合うつもりはないし、そんな必要もないけれど、それでもやはり何か自分らしい特別なものがほしい。
 ところが一つあります。平等に与えられたものが。それはDVDやビデオに映し出された映像そのものです。
 この映像だけは、英語ができようができまいが、研究者だろうが素人のおじさんだろうが、誰の前にも平等に同じ情報量をもって存在している。
 この映像--ダンサーの動きから何を読み取るか。これが不勉強な私に残された、自分なりにできるたった一つのミュージカル映画とのつき合い方なのです。」


私は「ない」ものを嘆いていたばかりだったので
例えば昔のアメリカに生まれたかったなあとか、
今の時代でしかも日本ではなあとか、
そんな風に思ってばかりだったので。
このような考えの方が居るなんて、
ああ私はなんて怠け者だったんだろうかと思ったのです。

自分にあるものをしっかりと見つめて、
それで自分に何が出来るか、何をしたいかと言う姿勢に
「ははあ~」ってなってしまった訳なのです。

OmuHayashi様の文章は
男性と言うこともあってか??とても論理的で
私には疑問を感じる余地なんてないです。
ただ、映像を観ながら実際に講義(?)を受けたらもっと分かりやすいだろうなあ
と、思うことはあります(笑)

私なんかは
「かわいい」とか「きれい」とか「面白い」とか
あるいは感嘆詞とか、
とにかく語彙も少ないし感じたことを頭で考えずに
そのまま出しているので、いやはや、情けないです。

また、同じことについて書いているものでも
全く違った視点なのと、
さすがによく映像を見ておられますし
私とは見方が全く違うので
体の動き、筋肉の動き、他のダンサーとの比較などなど
いつも楽しく、お勉強もさせていただいています。

またの更新を楽しみにしております。
ではでは、長文失礼いたしました。

_ OmuHayashi ― 2006年12月12日 01時08分33秒


Swonderfulrobinさん、こんばんわ。

感心していただいたところに水を差すようで
申し訳ないのですが、「映像だけは平等だ」という
のも、まあそうとしか言いようがないから言っているだけで、
本当はもっと英語も勉強しなければいけないし、
いろいろすべきことはあるのです。

しかし、自分の人生とエネルギーを逆算して行くと、
とてもじゃないが、土台作りをしていくヒマはもうないので
今出来ることからやって行くことにしたというのが真相です。
Swonderfulrobinさんにはまだまだ時間があるのでしょうから(たぶん)、
いろいろな勉強をしてミュージカルを味わって
いただきたいと思います。

まあ、結局は「怠けてちゃいかん」ということですが・・・・。

私は面倒くさがりで長い文章が苦手なので、
つい説明は簡略化してしまいます。読んでいる人の知識も
さまざまでしょうから、知らない人に合わせたらとんでもなく
長い文章になってしまうでしょうし、そうなると一生こういうこ
とを書くとは思えないので、とにかく書き続けられる程度の
文章として書いています。

 このブログはカウンターがないので、一体、どれだけの人
が読んでいるのかもわかりませんし、どうせこんなブログを
読むのは町内の変わり者くらいでしょうから(失礼)、わから
ないところがあっても良いと思うんです。

ただ、確かに一枚の写真と短い文章で説明できることは限
られているので、DVDやビデオを数十本持ち寄って、いろい
ろな場面も観ながら目の前であーだこーだと話せれば、もっ
と理解していただけるし、何時間でも話せるような気がします。
ちょっと残念ですね。

こうやってコメントをいただくのも、書くほうとしては励みにな
るので、いつも感謝しています。
ではまた。

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